次に、実親のハウスに移動しました。寒冷紗で薄暗くして、風も遮断されています。 「ちょっと、蒸し暑いでしょう、このぐらいが丁度花にはいいんですよ、花芽を伸ばすためと、交配後の受精が早く進みますよ」 何鉢あるのか尋ねると、数えたことがないとか、さっそく二人で鉢数を確認しました。 「これだけの数を一人で交配するには多すぎませんか」と、余計なことを言ってしまった。 さて、いよいよ、初めて西尾会長の交配実践を拝見させてもらいます。 |
「昼間は、雌しべに粘液が出ませんから雄しべの花粉を取ります」と、花粉採集から始めます。 ボウルの中に 細かい砂を半分くらい入れ、この砂の上に鉢を置くと、角度が自由に変えられて、交配作業が楽に出来るそうです。前後左右に鉢を傾けられる、素晴らしいアイデアです。
まず、ペンチの上にランセットを置き、文鎮でランセットが動かないように固定します。取った花粉をこのランセットに引っかけて次々と黒い板に落としていきます。 そして、少し花粉を乾かし、ランセットで細かく無数に切り刻みます。 乾燥が終わると、花粉を薬局で売っている薬包紙に包みます。そして品名を記入。シリカゲルの入った箱に入れ、保存します。 弁当箱大の箱に十二袋のシリカゲルが入っていて、少し乾燥不十分でも、花粉の湿気はこのシリカゲルが吸収してくれるそうです。 余った花粉は、大切にとっておき、この箱を冷蔵庫で保存して、来年また使うそうで…… 「雌花が早く咲いても、この花粉が使えますから、何の心配もいりませんよ。面倒な乾燥も必要ありませんしね」 実親ハウスに置いてある小型冷蔵庫の中は、この箱でびっしりでした。 「それでは、この花粉を使って交配をやってみます、簡単ですよ」 いよいよ、西尾流交配を見せてもらうことに――。 「ボ―ルペンの芯を抜き、先端に爪楊枝を差し込みます。爪楊枝の先端は花粉がよく見えるように黒く塗っておいて下さい。そして、コップに浸けておけば爪楊枝が膨らみ動かなくなりますよ」 「ピンセットや竹ベラは先が堅くて雌しべの先を傷めますから、この爪楊枝は先が柔らかくていいんですよ」 「このやり方は吉村さんに教えてもらいました、すばらしいアイデアでしょう」 |