【交配】 ─毎年の交配の組み合わせは? 「毎年、初花の交配から入ってね、新しい実親の発見に努めます。一度交配した組合わせはやりませんからね」 「初めての交配は、慎重に血統を選んでやらないとね。その葉型が七年〜八年後に花が来て、翌年生えを見て全く駄目な場合はこれは辛いよ、十年が無駄になってしまいますから」 「千代田斑については、現在の葉は斑が暗くても質が良いと言うものと、冴えが良くても斑の質が悪い場合があって、どちらが良いかと言えば純粋の千代田斑の暗い方が良いよ。その理由は、千代田斑は良化しますからね。胡麻斑のように劣化しないから」 「お金を出して買う人の目は極めて厳しいよ、三光の松の斑で力和とか、峻嶺に負けない物を出さないと、皆さん納得してくれませんよ」 「ただ、芸を追い込みすぎても悪い場合もあるね。私の理想は、玉松、寿松、春松にもっとボリュ―ムがあって特徴のある物が出ると申し分がないんですけどね」
●芸の強い雄木は花が遅れる傾向があるので、早めに加温室に入れ開花を早めて花粉の確保をする。 ●一度に全部の花が咲くと大変なので、獅子系は三月一日から加温、四月中旬頃に交配する。 ●加温すると花芽がよく伸びて交配がしやすい。交配期間が二〇日間くらいは長くなり、焦らずにじっくりと腰を落ち着けてできる。 ●加温設備については厚手のビニ―ルで囲い、温風機で加温する、温度は二七度に設定。 ●上棚で花芽付実親を順番に開花させる。 《蒔床の加温については》 ●前記の設備の下棚を蒔床とし、約五千粒を加温。 ●縦形のガラスケースを五段に区切り、上下から温風器で加温。約四千粒。 ●実親培養室(A棟)のジェラルミン培養棚の下を、厚手のビニールで囲い、温風器で加温。約二千粒。
「宝物でも探すように、箱の中に顔を埋めて羅紗千代田を見つけたときは、一瞬あたりが真っ白になったようで、出来たなあ、という瞬間がありますよね」 「それを抜くときは興奮します。種を蒔く人の楽しみは、あのときが最高ですね」 そして、蒔床のあるところから実親棚へ行き、その親を探すそうです。なにしろ、初花の親も多いのですから……。皆さんも探すときには、なかなか見つからない経験をお持ちの事と思います。 「実績がある親のばあいの感動は、そうでもないけれど、新しい親から生えたときは、興奮して探すのに時間が掛かりますね。そんなときは、なかなか探せない。これだったかな〜と迷う」 それから、記録するとのことです。
「継続は力なり。昔からのこの言葉は的を得ていますよ。一年に一回しか交配出来ないんだから、長くやらないとねえ、おもとの美を求めてね」 「焼物は窯出しした時に価値が決まる。おもとは、一つの房から一〜二本選んで、その後さらに二才、三才と毎年関所があり、それを乗り越えて行かなくては、完成はしないよね。全国で同じ交配をしているのでは面白くないから、毎年違った交配をしていきますよ」 「雄を変え、雌を変えて、組合わせの妙味を考え、その人の感覚で、あたかも陶芸家のように、自信をもって竹ヘラで交配し続けて、おもと美を求めていくんだからね。焼物を作るよリ難かしいかも知れない」 「十本出来たなと思っても、関所があって、五才になるまでには、淘汰とその他に培養上の問題もあったりして、一本も無くなるかもしれないねぇ」 このように、熊谷氏は独創的で、考えた交配をされています。それも、信念のもとに継続しておられることが、ひしひしと伝わってきます。 |